友達のおかあさん

  帰り道、すこし遠回りをしていつもと違う道を選んだ。川沿いの、散歩道として整備された場所だ。入ってすこし歩いた場所に段差があり、そこに座って大きな声で電話をして愚痴をこぼす女の人がいた。その女の人から3メートルほど離れた、けれど、ちょうど横を通るとき、あ、あんずのおかあさんだ、と気がついた。

  あんずというのは、わたしの小中学校時代の友達で、すぐ近所に住んでいたため、ほぼ毎日一緒に登校していた。けれど、中学にあがる頃からはほとんど惰性でその習慣を続けていて、つまりわざわざ連絡を取り合って遊ぶような友達ではなくなり、高校に入ってからは年に1、2度、偶然道端で会ったときにすこし話す程度の仲である。

  あんずのおかあさんは、いつもニコニコふわふわしていて、子供ながらに心配になるような人だった。小学校低学年の頃、あんずの家で飼いはじめた猫を見せてもらいに家へ遊びにいったことがある。そのときまで知らなかったのだが、わたしは猫アレルギーを持っていて、目が酷く腫れてしまった。それを見たあんずのおかあさんは慌て、オロオロし、泣きそうな顔をしながらわたしの母に電話をかけていた。(今思えば、預かった他人の子供に異常が起きればそうなるのは当たり前なのかもしれないけれど。)そんなあんずのおかあさんにも、家の中では吐き出せないことがあるのだ。そういえば、あんずの弟たちはすこしグレたんだっけな。すこし見ない間にあんずのおかあさんは歳をとっていた。